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鍼灸について

鍼灸を知る

鍼の原型は、原始石器時代に医療の目的で造られた砭石(へんせき)と呼ばれる鋭利な石片です。皮膚の腫れや膿んだところを石の尖った部分で切開し、膿血を出して腫れをひかせるために用いたのが鍼の始まりでした。また、触り心地の良い円形タイプの砭石もあり、患部を按摩することで痛みを抑えたようです。また、火の利用を医療に応用したものが灸です。石を火で焦がして焼き、温めたものを身体の各所に当てる「熱熨法」が用いられ、枯れた植物を燃やして温熱刺激を加える方法が、現代のお灸の原型です。砭石も灸も、もともとは原始時代の人々がたまたま切り傷などケガをしたり、火傷をした時に、他の部位に感じていた不調がどういうわけか治ってしまったという体験を通じて、医療として進歩したと考えられています。この頃の鍼灸は患部に直接施術する、局所的な治療方法でした。

2千年以上前である先秦時代~漢にかけての数々の医家の医療経験が理論化され、総合的かつ系統的に編纂・改編された『黄帝内経(こうていだいけい』が完成したことで、中国医学の基礎が確立されました。この書物の特徴の一つは、人体をバラバラに診るのではなく、さまざまな部位が有機的なつながりをもつ一個の統一体と捉え、外界の自然環境とも有機的に関わりあうと考える「天人相応」の観点にあります。刻々と変化する自然現象と、生物が営む生命現象を統合して捉え、気候の変化と人体の発病のパターンを考察し、予防や治療に役立てたのです。そのような有機的なつながりをもつ人体活動のセンターは内臓(五臓六腑)であると考えられるようになりました。活動に必要なエネルギーである気や血や水といった栄養成分を内臓が蓄え、必要な個所に必要なだけ供給し、それによって肌が潤い髪が生え、歯や骨が丈夫になり、精神は生き生きとして、四肢は力強く自由に動かし続けることができると考えたのです。五臓六腑の変調こそが疾病の根本原因なのです。

では、内臓と身体各部がどのようにつながりあうというのでしょうか。これには、「経絡(けいらく)」と呼ばれる気の流れる道筋(目には見えない電気コードのようなもの)の発見によって、理論化が進んでいきました。経絡とは縦の流れである経脈とそれらを横に網目状に連絡する絡脈の総称です。人体における上下左右前後のネットワークの存在を、古人は自己の内部感覚を深くみつめる内観によって発見し、記録したといわれています。雷に打たれた人にできたアザが、この経絡とまったく同じルート上に現れることがあり、経絡という普段は目に視えない流路の実在を示唆しています。

それはさておき、鍼やお灸をする場所である「ツボ」。このツボは身体にバラバラに在るのではなく、経絡のルート上に整然と並んで在ります。ツボは経絡上にある穴という意味で、「経穴(けいけつ)と呼ばれます。五臓六腑・各経絡の変調があると経穴に反応が現れ、そこに鍼や灸を施すことで、直接内臓を触らなくても、内臓の状態を良くすることができるのは、このようなネットワークがあるからです。
経絡と経穴の発見は、鍼灸医学に大きな進歩をもたらしました。それまでは、痛みのある患部に対して直接鍼や灸をするしかなかったのですが、身体の中の内臓や目玉や耳の中など、直接施術できない部位に対して、経絡のつながりを利用して遠隔部位に施術をすることで治すことができるようになりました。このような経絡・経穴・臓腑のつながりが理論的・体系的にまとめあげられ、現在の鍼灸医学が成立しています。

脈診と調脈

数千年にわたる臨床経験の積み重ねの中から中医学独自の診察法が生まれましたが、その一つが脈診であり、身体の動脈、多くは手首の脈に触れて身体内部の状態を診る診察法です。脈を診るといっても、拍動の数だけを診るわけではありません。脈の打ち方、流れ具合や強さ・速さのアンバランスなどを診るのですが、これら脈象には肝・心・脾・肺・腎の五臓の働きすべてが関わって現れているので、逆にいえば脈を診ることによって、臓腑の気血・陰陽の生理的・病理的な状況を判断することができます。これにより、本人が自覚していない臓腑バランスの乱れをいち早く捉えることも可能です。
そして、脈診にもさまざまな種類があり、当院では以下の複数の脈診法を用いて多角的かつ総合的に判断します。

▶ 人迎気口脈診(三因極一病症法論)
▶ 六部定位脈診(難経)
▶ 李時珍九道脈診(瀕湖脈診)
▶ チベット医学脈診(四部医典)
▶ アーユルヴェーダ脈診
▶ 黄氏脈診(黄氏圏論)

脈診によって判断した情報をもとに適切な治療をすると、その場で脈象(脈の状態)は変化します。脈象が良い状態に調えば臓腑の働きが円滑になり、症状の多くはその場で改善・消失します。このように、脈を調えることを調脈と呼び、調脈をすることによって病理的な状態から生理的な状態へと近づけていくことが可能です。

最後に、脈診は結局何を診ているのかということについて述べておきます。そもそも、脈は心臓から送られてくる血液の圧力によって血管が押し拡げられて拍動するので、心臓や血管の状態がある程度予測できるのは当然です。しかし、中医学の観点からみる脈の認識はそれだけでは収まりません。先の「鍼灸を知る」の項でも述べましたが、人体は五臓六腑すべてが密接に関わり合って一つの整体となっています。食事によって得た栄養素は腸胃で吸収され、呼吸によって得た酸素とともに、肺と心臓の力で血液を介して全身へ巡らされ、肝と脾は全身をめぐる血流量を調節し、腎は陰陽の根本として活動の原動力・血液生成の物質的な基礎として、脈と関わりあっているのです。五臓が血液や血管や気血の流れに影響を及ぼしていると考えるからこそ、脈象の中に五臓六腑すべての情報が詰まっているといえるのです。そして、五臓の影響によって脈の性状が変わる、その神妙な働きを「気」と呼んでいます。気は、目には視えません。目には視えませんが、例えば、木々の揺れや水面に立つ波をみて風が吹いたことを知ることができるのと同じで、脈の打ち方によって五臓それぞれの気の流れの状態を知ることができるのです。脈診は、五臓の気の状態を診ているといってよいでしょう。

【鍼が怖い方には触れるだけの鍼】
鍼(はり)は怖いイメージがありますが、刺さずに触れるだけで痛みや症状をしっかり根本から改善することが可能な方法もあります。当院は微鍼をツボに当てるだけでしっかり治療することが可能な「気鍼医術」という技術も採用しています。
気鍼医術の公式サイトには多くの素晴らしい治験の記録がありますので、是非下記URLのブログを参考になさってください。
https://kishinijutsu.com/