アイシング(冷却)はスポーツ選手が積極的に行っていることでよく知られるようになりました。では家庭で日常的にアイシングをするシーンは見当たらないのでしょうか。
たしかに家庭でアイシングをする習慣は今はまだあまり聞きません。それはまだアイシング(冷却)についての知識が充分普及していないことが一因であると思います。しかし近い将来、アイシングの価値や科学的意義が浸透すれば家庭においてもアイシングは日常生活の中に溶け込むほど当たり前の行為になってくるのではないかと思います。
それほどアイシングには効果性と汎用性を兼ね備えていますし、今後温暖化や電磁波の問題によって熱の貯留による病が増えるため必要に迫られることでしょう。また、ケガや不調に陥った場合のファーストチョイスとして最適なものであるともいえます。本記事ではアイシングの意義と方法、応用や冷却時間などについてご紹介いたします。
てっとり早くアイシングの方法だけ知りたい方は、目次から、「アイシングの方法」を先にみてくださいね!
目次
アイシングの意義
意外と怖いうつ熱のはなし
人のカラダの成分は水が多いですが、その他にもタンパク質や脂質でつくられています。このタンパク質、実は熱に弱く、うつ熱により41°ほどの温度が続くとだんだんタンパク質の構造が壊れ細胞がダメージを受けてしまいます。
痛みのある場所や動きの悪くなっている場所には、基本的には炎症が起こっています。そして炎症の部分は化学反応により熱が盛んに生みだされています。この熱がうまく排出されずにいつまでも溜まっていると腫れがひかず、熱に弱い人体の組織にさまざまな悪影響をもたらします。
例えば骨。骨の主成分はカルシウムだと思いがちですが、カルシウムだけでは、チョークの粉のようなもので、硬く丈夫な骨はできません。
骨がつよい秘密は、コラーゲンというタンパク質がとても豊富で、建物でいう鉄筋コンクリートの鉄筋の役割があるからです。そうしたコラーゲンの骨組みに、コンクリートにあたるカルシウムが沈着して強度を保っています。
また、関節軟骨もコラーゲンでできています。このような骨や関節軟骨をつくる重要なコラーゲンは熱によわく、関節を痛めて炎症が続いた場合や摩擦が続く場合には熱をもち、最悪の場合には関節や骨の変形につながってしまうのです。
また例えば、脳。脳は水分の次に脂質でできています。脂質も熱によわく、溶けやすい成分です。脳が壊死した場合、溶解(溶ける)のはそのためです。脳はとってもエネルギーを欲しがる臓器なので、ただでさえ熱を生みます。
脳の熱が排出されずうつ熱がつづくと、神経の繊維を包んでいる脂質(電気コードのビニールの部分)が溶け始めショートしやすくなり、機能不全に陥ります。
さらに内臓。内臓もタンパク質でできており、さまざまな化学反応を起こして代謝しています。特に肝臓は大量の血液を貯留し、解毒するときに熱を生むのでうつ熱しやすい臓器です。肝臓の細胞が熱によって壊れることで、肝臓の数値が上昇します。
カラダに備わる排熱のしくみ
このように、カラダのさまざまな要素は熱によわいことが分かります。そのため、カラダは積極的に熱を捨てています。熱を捨てなければ細胞が壊れて生きていけないからです。今度はその例をいくつかみていきましょう。
脳は非常に熱をもちやすく重要な臓器です。だから脳を冷やすためのさまざまなしくみが人体には備わっています。
一つは、首の後ろにある静脈の束と、目の奥にある海綿静脈洞とよばれる静脈のプールが脳を冷やすしくみとなっています。これらの静脈が外気で冷やされ、血液を冷たくすることで、脳を冷やすしくみが働いているのです。
二つには、鼻呼吸。呼吸は鼻でするものですが、鼻腔の奥は鼻甲介とよばれる薄い棚が張り出すことで表面積を増やし、鼻腔内を空冷することでその直上に位置する前頭葉を冷やします。また、鼻腔の奥には「下垂体」があり、これはホルモン調節の中枢でもあります。
もし鼻呼吸ではなく、口呼吸のクセがついていれば、脳を冷やせず絶えずボーッと頭が働きにくくなり、疲れやすく、ストレスが溜まりやすくなり、ホルモンのバランスも崩れてしまうことでしょう。
三つには、血液循環です。血液循環は、カラダを栄養したり温めるために大切な要素ですが、実は1カ所に溜まった熱を他の場所に運んで捨てる働きもあります。先述したように、熱が溜まりすぎれば細胞が破壊されるため、積極的に熱を運んで捨てなければなりません。
最後に、汗や呼吸や排泄です。カラダから熱を捨てる主な方法は、皮膚からの発汗、呼吸による放熱、うんちやおしっこを出すことで熱を捨てることです。このほかにもカラダはまわりの空気に直接熱を捨てる輻射熱を放出しています。
アイシング(冷却)はうつ熱した熱をとりのぞく
熱に弱い人体が、発熱やケガ、排泄や発汗障害によって局所に炎症がおこり、熱が溜まって逃げなくなることを「うつ熱」と呼んでいます。アイシングの目的は、自分の力で捨てることのできなくなった余剰な熱のエネルギーを強制的に取り去ることにあります。
炎症や熱の貯留により、うつ熱した組織は基本的には膨れ上がって腫れています。ちょうどイーストを入れたパンを焼いているときにパンが膨れ上がっているようなものです。
この状態が長くつづくと、膨れることにより組織と組織の間も離れてしまってむくんだような状態になり、循環が悪くなります。細胞も膨れ上がって正常な働きができなくなります。また、細胞や組織同士の連絡も疎になってうまくエネルギー伝達ができなくなり、自己治癒力が阻害されます。
こうした場所を、氷で冷やすことで膨れていた組織・細胞が収縮し、例えば細胞同士がうまく情報交換しやすくなり、骨と骨の間も密になって滑りがよくなります。内臓の細胞が回復しやすくなり、関節の損傷も癒えやすくなる環境が整います。
氷冷は増大するエントロピーを減少させる
外界からの刺激や環境に対して反応する系が生命であり、抗する力が生命力です。
これは、生命が低エントロピーの状態をつくりだしている(自己組織化)ということができます。ホメオスタシスとも言います。
アイシングの最大の目的は、損傷された局所が炎症熱により膨脹系にあるところを収縮系へ転換することです。
これは、熱力学第二法則である「エントロピー増大の法則」に由来しています。
エントロピー増大とは「物事は放っておくと乱雑・無秩序・複雑な方向に向かい、自発的に元に戻ることはない」という「乱雑さ」の程度を量であらわす概念です。
事物は通常、放っておけば無秩序な方向へと拡散されていきます。
外傷などにより傷つけられた場合、その部のエントロピーを減少させ秩序化を取り戻すために炎症反応が起こります。秩序化を行う炎症も仕事(W)を行うことに伴いその過程の副産物としてどうしても熱がうまれてしまいますが(この熱が殺菌など良い働きをする面もあります)、この熱が長引いてしまった場合には、生体を構成し様々な機能を担うたんぱく質を破壊するとともに、外へ拡散する方向へとエネルギーが動くため結果的に修復が遅れます。
なぜなら、圧力や濃度の高い状態は分子の密度が大きい状態であるためエントロピーは低い状態ですが、その制限が解き放たれると,自由に分子が移動することができ,エントロピーは高い状態になるからです。
つまり、エントロピーが増大してバラバラになる状態にあらがって、物質が凝縮した状態へと近づけていく収縮系へと変換することが肝要です。
こうしたエントロピーにあらがう力のことを、「ネガティブ・エントロピー」、略して「ネゲントロピー」と呼ぶことがあります。
損傷局所の低エントロピー化(ネゲントロピー)を人為的に行い、損傷組織が回復しやすい環境である高圧力高密度の状態をつくる=収縮系に転換するために、アイシング(氷冷)が非常に重要であるということです。
以上が、積極的にアイシングを行う最大の意義です。
からだは、外界に対して自身のエントロピーを減少させ生命場として秩序化させるために、積極的に排熱をしています。それが呼吸・排便・汗です。これらの機能が正常に働かなくなった際にもアイシングは非常に有効で応用の効く手段となることを覚えておいてください。
この考え方は、ウイルスの拡散を抑止したい場合やがん細胞の増殖や転移を阻止したい場合にも応用できます。
アイシング(冷却)の方法
必ず氷をつかいましょう
医療的な目的でのアイシングで最も大切なことは、氷をつかうことです。アイスノンや保冷剤、コールドスプレーなどは一見便利ですが、冷却の効率と効果が悪いうえに、最悪の場合凍傷のおそれがあります。
いくら物自体が冷たいからといって、局所から熱を奪う能力が高いとは限りません。氷が溶けるときに周りから奪う熱量は80cal/gで、逆に言えばばこれは1gの水を80℃ほどに熱くするほどの熱量を奪うので、氷がどんどん溶けている時はうつ熱した場所から効率的にどんどん熱を取り去ってくれます。
しかも氷は溶けきるまでは0℃から4℃の間で安定しているので、組織を傷めず、非常に冷やすことに適しているのです。
アイシングの手順
アイスバッグ(氷のう)を使った冷却方法をおすすめします。薬局やネット通販などでご購入ください。おすすめは、「富士商FUJISHO」さんのアイスバッグ。サイズは大、1000ml。長年使っても丈夫で結露しにくく、ネットにいれ洗濯機であらうことも可能です。
1.氷をできるだけたくさんアイスバッグに詰めます(少ない氷では充分冷却できません)
2.冷凍庫から出したばかりの氷は霜がついているため、水を入れます。アイスバッグをギュッと絞ると水が上に来るぐらいまで入れます。
3.アイスバッグを絞って、水位を上に上げた状態でフタをすると、空気が抜けるため、冷却の効率が良くなります。
4.アイスバッグを広げて整形します。
5.患部に直接当てます。
基本のアイシング(冷却)部位
首のうしろ(すこし後頭部にかかるくらいの位置)と、仙骨の部分(骨盤の後ろ)は、人体バランスの要となるところであり、熱が溜まりやすい部位です。
この部を毎日1回冷やす時間をつくることで、効率的にうつ熱を除去し、健康を保つことにつながります。自律神経とかかわる部位でもあるので、全身的なバランスを保つのに非常に効果的です。
また、首から肩~肩びきにかけて広がる僧帽筋は、頭へ送る血液を貯めるタンクの働きをしているため、熱中症時やうつ熱でしんどい時、ホルモンバランスが乱れている時などは僧帽筋をしっかり冷やすことも効果的です。
アイシングの時間
アイシング(冷却)の時間は、基本は20分です。深部の熱がある程度とれるのが20分。ただし、急性の場合や炎症が強い場合、症状の程度によっては、40分から1時間以上冷やすことで効果がでることもあります。
冷やすと、最初は強い冷感→いたみ→感覚が消えるの順で変化します。
長時間冷やした場所は赤く発赤し、感覚がなくなるのが普通です。驚く必要はありません。また、炎症が強い場合、熱の抜け方が急激な場合、末梢部位の場合はかなりの痛みを感じることがあります。決して無理をせず、あまりに痛い場合は一度外して、また冷やす、を繰り返しましょう。
初めての方は、10分くらい冷やしてから、一度様子をみるとよいでしょう。
水で洗って氷で冷やす場合には凍傷になることはありませんが、以下の注意点もお読み下さい。
アイシングの注意点
アイシングの注意点についてお伝えします。
1.一度にアイシングする面積は、手のひら二枚分までにしましょう。1000mlの容量のアイスバッグ(氷のう)だと2カ所までです。夏の暑い気温の中や熱中症時をのぞき、2カ所以上の冷却は身体が冷えてしまい、免疫力が下がったり風邪を引きやすくなり逆効果になることもあるので、おすすめしません。
2.アイシングを行う場合は部屋を暖かくし、重ね着するなどして冷えない環境をつくってから行いましょう。冷却と冷えは別物です。身体が冷えてしまうと身体機能は低下します。
3.糖尿病やレイノー病などで末梢の血流障害が悪い方は、指先などを冷却すると血流障害を起こすことがあります。指がいつも紫色になっているなど血流の悪い場所には念のため行わないようにしましょう。
4.アイシング(冷却)の禁止部位は、首の前にある甲状腺と胸の前(心臓)です。他にも指先や手足の末梢部位に血流障害がある場合はやめておきましょう。
5.その他、無理をせず、患部の状態を確かめながら行いましょう。わからなければ医療機関に相談し、自己責任のうえ行ってください。
京都市東山区三条の鍼灸・接骨院 白澤堂HAKUTAKUDOU
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