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誰も知らない捻挫の脅威と関節の神秘

捻挫が一番重症

捻挫(ねんざ)というと、足首をくじいたり、手首を捻ったりを想像するのではないでしょうか?

実はそのほかにも、寝違えであったり、突き指であったり、ぎっくり腰なんかも捻挫の部類に入ります。

混同しがちな損傷に、「挫傷(ざしょう)」というものがあります。これはいわゆる「肉離れや筋違え」。筋肉に起こるものですね。

捻挫は骨と骨のつぎめである関節に起こるものであって、この関節が正しい元位置からズレた時に発症するものです。そのため、痛みや苦痛を自覚しないままに起こっている「捻挫」もあるわけで、関節の位置がおかしいのにも関わらず、慢性化してしまい表面的には症状を感じないという場合もあります。

この「捻挫」、けっこう軽くみられがちなのですが、一番重症度は高いといっても過言ではありません。

骨折よりも重症ということも多いのです。

なぜなら、骨折の場合は骨がくっついたらおしまいです。正しい位置に戻すか手術などで位置さえうまく合わせて固定しておけばまた硬い骨となって問題なくなります。でも、捻挫はそうはいきません。

それは、関節を捻ってしまう捻挫は、同時に靭帯(じんたい)を損傷してしまうからです。

靭帯とは、関節が変な方向へ動きすぎないように守ってくれているバンドです。骨と骨についていて、ぐらぐらになるのを防いでくれているのですね。

よく捻挫すると、「靭帯がのびた」という表現を聞きますが、

靱帯は伸びません(;´Д`)

靭帯の伸展率は4%です。(ちなみに、筋肉の伸展率は50%、腱は13%)

仮に10mmほどの靭帯であれば、0.4mm。つまり1mmも伸びません。

靭帯を傷めた場合は伸びるというより、繊維が切れてしまうのです(部分的に切れたり、完全に切れたりします)。

そしてこの切れた靭帯は治るかというと、骨折ほどキレイに治りません。

瘢痕化(はんこんか)といって、カサブタみたいな状態から別の繊維に置き換わって関節は以前より緩くなってしまいます。これが捻挫が習慣化しやすくなる所以でもあります。

要するに「捻挫」は治りにくいのであって、後に説明するように色々の不調へと発展していくのです(´Д`)

関節の位置異常という点では、ケガにかぎらず、不良姿勢や仕事における繰り返しの動作によっても「捻挫」は起こると考えます。

捻挫をあなどることなかれ…

捻挫による不調

私達人間は、縦に直立している動物です。

そのため、土台である骨盤や、その下の股関節、ひざ関節、足首の関節にズレが生じると、体全体が歪んでしまうことになります。

たとえば高層ビルで、基礎の部分が傾くと、最上階にいくほどその傾きは増幅されます。

ドアは歪んで開きにくくなり、ビル内部の机や棚も傾き、壁にヒビがはいって、水道管などにも影響があるかもしれません。全体的な「たてつけ」が悪くなってしまうのです。

そう考えると、人間であっても関節にずれが生じると体が傾き、頭部にいくほど傾きがつよくなり、めまいや肩こり頭痛の原因となったり、内容物である臓器の位置も変わって常にある方向へ引っ張られます。血管がひきのばされ、特定部位の血流が悪くなったり、関節の運動異常が他部位に波及して構造破綻が連鎖します。

肩こりや背中などの筋肉の「こり」はどうして起こるの?という一つの答えがここにはあります。

再び例え話となりますが、テントの支柱が傾いてしまった場合はどうなるでしょう?

支柱が傾いた分、テントの布やロープはピーンと張ってしまいます。それ以上倒れては困りますから、誰かが支えてひっぱらなければ倒れてしまいます。

これと同じようなことが身体にも起こっていて、関節の捻挫によって波及した傾きは、筋肉によってそれ以上傾かないように、また関節が動かないよう「守るため」にキューっと縮んで硬くなってしまうのです。

これを「筋のディファンス」、「筋性防御」といい、これが「こり」です。

ということが分かれば、

関節が元の位置に戻って、関節機能が回復し、ズレなくなれば、まわりの筋肉は関節が動かないよう頑張る必要はもうなくなるわけです。もう筋肉がかたくなる必要はなくなるのです。

ここで怖いのは、せっかく守ってくれている筋肉を下手にマッサージしてしまうと、必要があって硬くなっていた防御が働かなくなることです。また、ただでさえピーンと弦のように張っている筋肉をおさえるわけですから、余計に張力を高めてしまうという点(これは弦張理論と呼ばれます)。マッサージがだめとはいいませんが(個人的にはマッサージ大好きです(笑))、注意が必要な点ではあると考えています。

関節の大切さ

関節の構造は5億年前から変わっていません。そのため、構造自体は身体のどの部分の関節もほとんど同じつくりをしており、非常にシンプルな構造です。

しかし、そのシンプルな構造の中に、地球上で生きるための奥深い機能が備わっています。神秘的で美しいともいえるでしょう。

基本的な関節のつくりは、骨と骨どうしが対面する部分にある軟骨と、それを包む膜(滑膜)。そして、その中を満たすごく少量の関節液(滑液)です。

たったこれだけのつくりですが、地球上で運動するうえで逃れることの叶わない1Gという重力から生じる摩耗から身をまもり、なおかつ脅威であるべき重力を逆手にとって生理性を保つというはなれわざ的な芸当を備えているのです。

普通は、関節には体重がかかるので、摩擦によって運動すればするほど熱が発生し、骨どうしはすり減って破壊されていくはずです。

くわしくは、

重力下の運動⇒摩擦⇒摩耗⇒運動エネルギーの熱転換⇒破壊

という過程をたどります。

しかし、関節はこの摩擦と摩耗の問題を驚くべき方法で最小限に抑えています。これは後程述べましょう。

かといって、重力による摩擦と熱から関節を守るだけではだめなのです。

関節のもつもう一つの大事な機能。

それは、「力と情報の伝達」です。

効率よく骨から骨へ力や情報を伝えなければ、力強い動きやスムーズな連動を実現できません。それどころか、適切な荷重によって生じる電位が発生しなければカルシウムが沈着せず、骨は逆にもろくなってしまいます。

これは、神経のもつ平均的な伝達速度(毎秒120m)よりもはるかに速い伝達です。直立して転倒せずに動くには、神経の伝達速度では到底間に合わないことが分かっています。

そのほかにも課題はあります。

関節内部に貯留した熱やよごれを排出する機構が必要となります。関節から熱や汚れを効率的に逃すことができなければ、関節は時間経過とともにどんどん破壊されていきます。

最後に、力の分散です。

関節に加わった衝撃を、ダイレクトに次の骨に伝えてしまうと、容易に関節の破壊や骨折を引き起こしてしまいます。一点に集中した力を分散するショックアブソーバーのような機構が必要となることが想像できることでしょう。

軟骨と滑膜と滑液。

この単純な構造で、これらすべての課題をものすごい精度で実現しているのが関節機構です。

詳しい説明は省きますが、

荷重が加わり圧力が加わると、関節内部を満たす液体(滑液)が圧縮されて加わった力を均等に分散し、かつその力を増幅して次の骨へと伝達します。

これを「油圧」といいます。工学の分野では、パスカルの法則により「油圧」は重要な機構です。

これが、一見逆説的にも思える「力と情報の伝達」と、「力の分散と耐摩耗」の両方を実現します。

ここで驚くべきことは、関節は「荷重を加えた方が摩擦係数が激減する」ということです。

普通なら関節に圧力を加えた方が摩耗してしまうと考えてしまいますが、

関節を引っ張りながら、つまり関節に圧力を加えない状態で動かすと軟骨同士の端面が接触してしまい摩耗してしまうことになるのです。

これは、関節という密閉空間の中に滑液という液体があるため、この液体は非圧縮流体といって圧力を加えた場合に液体中のどの方向にも同じ力が一様に広がるため、それ以上骨どうしが近づくことができず、結果として関節面どうしの接触をさけて、あたかもリニアモーターカーのように互いの面が接触することなく運動を実現することが可能となります。

残る問題は、熱による破壊と、汚染(コンタミナント)と栄養供給ですが、

それは比熱容量の大きい関節液によって熱を分散し、関節軟骨のもつ弾性がスポンジのように膨らんだりへっこんだりして、関節に溜まった液を洗浄吸収し、滑膜からあたらしく栄養を供給します。これにも圧力が必要となります。

余談になりますが、関節内部の汚れが逆に関節間の潤滑を高めてくれる役割も果たします(コンタミナント潤滑)。

まとめますと、

わたしたちは地球上で活動する限り重力からは逃れられず、普通ならば運動すればするほど摩耗して壊れてしまうはずが、逆に重力や荷重をかけた方が摩擦を減らし力をうまく伝え分散し、循環洗浄することができるという極めて優れた機構を関節は備えているということです。

わたしたち人間のカラダって、ほんとうによくできていると思いませんか?

これらの機能をひっくるめて関節の「潤滑」と呼んでいますが、この「潤滑」こそが関節のもつ大切な機能です。

そして、「捻挫」はいままで説明してきたような関節機能の最も重要な要素である「潤滑」を破綻させてしまう原因となってしまうのです。

そして、この「潤滑」は、荷重のかからない環境下での運動、つまり非荷重状態での運動:「ぶらさがり」「ストレッチ」「牽引療法」「スポーツの一部の動作」「美容院での洗髪」「低気圧環境」、

正しい荷重がかからない運動「自転車」「中腰での作業」「座位時などの不良姿勢」によって、破綻してしまうことは追記しておきます。

関節の戻し方

いままでのお話の中で、いちど傷めてしまった関節機能を正常化させるには何が必要になると思いますでしょうか?

関節は、摩擦を減らすため、力や情報を伝えるため、応力を分散させるため、循環し熱交換と洗浄と栄養供給を実現させるために必要なことはなんだったでしょう?

それは、「圧力」を加えることでした。

つまり、「重力」に適切に応答させることが必要です。

では、どうすれば適切な圧力を関節に加えることができるでしょう?

またその一番良い方法はいったい何なのでしょう?

その答えとして、「歩行」をおすすめします。

人間の最も生理的で大切な運動は「歩行」です。

歩行は運動とは分けて考えましょう。

「わたしは運動しているから健康です」ではありません。運動は身体を壊すおそれもあるからです。

歩行は運動とは異なり、「移動様式」です。

鳥は飛ぶ。虫は這う。魚は泳ぐ。人は歩く。

「生物の三大生理要素」は、移動・捕食・生殖です。

この中で一番大切なことは「移動」です。

移動ができなければ、捕食・生殖はできず、自然界では自分が他の動物のエサとなります。

A地点からB地点へと移動することができなければ、その生物は死んでしまいます。(もちろん、社会のなかで生きる我々は死ぬことはありませんが)

人が「移動」するための方策が「歩行」なのです。

人は、歩行によって命のぜんまいを巻き、文字通り「充電」します。

話は関節だけではなくなってしまいましたが、関節にとって歩行は、ズレてしまった関節を正しい圧力によって元位置へと復元する素地をつくり、失った「潤滑性」を取り戻す最適な方法といえるでしょう。

歩行に関する詳しい記事は、以下に示してますので、ご興味のある方はお読みください。

もう一つは、冷却です。

患部である関節を冷却することで、関節内の熱破壊を食い止めます。同時に関節液の粘度が高まり、収縮するため相対的な圧力がかかって潤滑性が高まります。このために関節機能を回復させる基盤をつくることが可能です。

冷却は、かならず水で洗って霜をとった氷を用いて行うようにしましょう。

詳しい冷却方法は、以下の記事をお読みください。

歩行と冷却以外にも関節をもどす方法はいろいろとあります。

その一つに、関節の「整復」という施術があります。

「整復」とは、関節の元位置に復するということですが、方法としては圧力を加えることにより「潤滑」を取り戻します。そのため、関節をひっぱったり引きはがしたりすることはしません。ストレッチを加えることもありません。

多くの関節は、ごく弱い力を加えるだけで位置異常が戻ります。中には硬い関節もありますが、基本的には強い力では戻らないのです。強い力に対してはまわりの筋肉が反応してしまって、関節を固めてしまうため、弱い力で整復することが基本となります。

捻挫によって傷ついた靭帯や筋腱の異常は、関節が正しい位置に戻ることによって回復します。

逆をいえば、捻挫をして放っておいて関節が戻ることはまずありえません。

転んだりして、「骨が折れてなくてよかった」とよく言いますが、とんでもありません。

「骨を折ったけどきれいにくっついたから大丈夫」といいますが、関節はズレたままです。

「ケガをしたけれどずいぶん昔のことだから、今の症状と関係ない」というのも間違いです。

衝撃を受けた以上、関節の捻挫は起こっていて、自覚・無自覚にかかわらず運動異常がずっと残存します。

それが将来どのような影響を及ぼすかは、またの記事でご紹介したいと思います。

未来に「運動異常」を残さないために、捻挫程度と済ませないよう日頃の養生を大切にしていきましょう☆



京都市東山区三条の鍼灸・接骨院 白澤堂HAKUTAKUDOU

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Nagahama

はじめまして、鍼灸・接骨院「白澤堂HAKUTAKUDOU」の院長・長濱です。 当院では、東洋医学の幅広い知識を現代に活かし、皆様の健康を支える施術を行っております。気血のバランス、骨格のバランスを整えて本来の正常な機能と動作を取り戻すことが大切です。心身のお悩み、お気軽にご相談ください。

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